今年度から中学校での武道とダンスが必須になり、武道は男女とも柔道、剣道、相撲から選び1~2年間、学ぶことになります。3年になると球技の選択が増えますが、武道は2年間で約24、25時間程度です。もちろん3年までつづける生徒はさらに稽古時間は増えますが、多くても40時間弱です。
ここで問題になりそうなのが指導者の数と質です。今でもクラブ活動で、指導者がいないために廃部になる柔道部は少なくありません。
日本古来の武道が盛んになると精神力の向上に役立つし、底辺の拡大で柔道の世界的水準が戻ってくる可能性は大きいと思います。この点では女子柔道界の草分けで、筑波大准教授の山口香氏は取材の折、「フランスのように柔道人口が増えるのはうれしいが、指導者不足が心配」と語っていました。
さらに「全国柔道事故被害者の会」が訴えている、柔道事故の多さとその背景です。
文部科学省外郭団体の発表では、過去28年間に中高で起きた死亡が114人、重い障害が275人で他のスポーツに比べ圧倒しています。多いのが大外刈りなどによる頭部を強打したもの。大外刈りは簡単な技のようにみえますが、掛かっても反されても大きく飛び、見ている以上にむずかしい技です。受身をとるにも他の技とちがって、しっかり頭をまるめなければ有段者でもよく後頭部を打つことがあります。
ごく最近、クラブ活動で起きた事故に対し、指導者と校長先生が傷害致死罪で有罪になりました。全日本クラスの実力者が初心者の中学生に、行き過ぎた投げや絞め技を指導したことに原因があると裁定しました。かつて中学生の絞め技は原則禁止、例外として黒帯以上の生徒に許されるのみだったはずです。
嘉納治五郎師範が説いた「精力善用」「自他共栄」の柔道精神から逸脱し、弱いものいじめでしかありません。イギリス柔道連盟のガイドライン、フランスの国家資格制度などを取り入れ(実際にこうした国ではほぼ重篤事故がゼロ)、親や教育現場が安心して授業を受けられるシステムが急務です。
わたしは小学3年から柔道を習っていましたが、この経験から提言すると、40時間では受身と簡単な打込みで十分だと思います。前方回転という前に転がって受身をとることだけでも、ずいぶん時間を要します。
「円をかくように受身をしろ」と教わりましたが、受身のうまい人ほど強いのです。打込みとは、投げる前の形の稽古ですが、腰の位置、相手の崩し、かけるスピードなど相当な時間が必要です。この打込みもうまい人ほど強いようです。柔ちゃんこと谷選手の打込みは目にとまらぬ速さでした。
世界柔道の本家・日本の水準はけして高くありません。フランスに日本の3倍近い柔道人口がいることは、底辺の拡大に成功しているからでしょう。多くの親たちは「柔道を習わせると礼儀正しくなり、しつけがしやすい」というそうですが、日本柔道界も古い体質をさらに改善すべきでしょう。
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