長 屋

戦後、間もなく
私たち一家は熊本から
東京下町の小岩に引っ越してきた
六軒長屋の六畳一間に七人
まさに息をひそめて暮らした
安藤さんちはムシロでボロ切れを売り
関さんちはリヤカー引きで八百屋
ヒロポン中毒の人はよくトマトをくれた
それでも
お金持ちの正二くんがガキ大将で
みんなを遊んでくれた

小学校入学の前日
ひらがなで名前が書けないからと
同じ年の満くんとふたり
姉に怒られ泣きながら特訓され
鉛筆もノートもないから
地面に棒で何回も書き、消した
こんなにしてはいった学校は
幼稚園出の子が多く
新しいノートに漢字で名前を書いている
それでも
二部式の授業は給食から始まり   
脱脂牛乳がおかわり自由
満くんと何杯も飲んだ

どの家も雨が降ると家じゅうに
洗面器や空き缶を配置し
共同便所から汚水があふれる
冬でも小さな火鉢ひとつで
給食のない日はコッペパンを焼いた
それでも
長屋のとなりの大家さんは
大きな池を持っていて
一年に一度、池の水をぬいて
近隣へ鯉を配るので尊敬されていた

それだから
好きな自分の道を歩めて来れたのは
長屋のおかげだと思う

東銀座出版社 電話03-6256-8918

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東京都豊島区池袋3-51-5-B101

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