「やさしい文章教室」執筆の手引き

〈わかりやすい文章を〉

 名文を書こうと思うより、読者(第三者)に伝わりやすいことを心がけます。


 山、谷のあるすばらしい文章とは美しく流れるだけのものではなく、誰も体験したことのない貴重な事柄、心からの叫びが感動を呼びます。以下のことはテクニックとしてではなく、わかりやすい文章を書く心得として理解してください。

 

 ①センテンスを短く書く。60字以内がメドです。
 同じく、主語と述語の間も短いほうがわかりやすい。例題として、「君は言った。」「わたしは叫んだ。」のように簡潔にします。新聞は比較的、簡潔に書いてあるので参考になります。


 ②「です・ます」調と「である」調を混同しないように。


 ③とくに力を入れたい場面は、できるだけ詳しく書き込みます。

 当時の服装、生活風景、周囲の様子。さらに人の表情、話し方、しぐさまで、ていねいに書き込みます。


 ④登場者や第3者の時間・時と場所をいつもはっきりさせます。
 とくに自分以外の登場者は誰か、誰が話しているのか。何時なのか、場所はどこなのか。この時と場所をいつも明確にし、誰が行動したのか、誰が言ったのかをはっきりさせないと、文章が混乱します。はじめは必要以上に主語を毎回、書いてもいいでしょう。


 ⑤一方、自分史や私小説などでは、「わたし」を必要以上に出さないほうがいいと思います。

 「わたし」という言葉を削っても通じるときは省きます。読む人は、「わたし」が誰かわかっているからです。しかし、④でも書きましたが、主語が誰なのかわからない場合は、「わたし」も必要です。


 ⑥概念や形容詞で表現しないこと。
 「とてもよかった」とは、何がよかったのか書かれていません。「すごく美しい」とは、どんな色や景色や形がきれいだったのかわからないのです。可能なかぎり描写をていねいに書きます。香り、気候、味など五感を表現するときもていねいに書きます。


 ⑦写真、イラスト、図、資料などもひとつの物語ですから積極的に活用しましょう。


 ⑧作文や自分史で禁句と言われるものは、「自慢話」と「他人の悪口」です。
 これは自信があること、貴重な経験や誇り、あるいは他者への批評、批判とは別のものです。同じ内容でも、「自慢話」になってしまうのか、「誇り」として語れるのかは、客観性があるかどうかの違いです。
 
 夏目漱石は作品を書き上げると3年間、引き出しにしまい、さらに加筆、添削したと言われます。書いた本人は夢中です。3年とはいわないまでも、少し時間を置いて読み返すと、客観性や整合性が自分にも見えてきます。


 くれぐれも「うまく書こう」「きれいにまとめよう」と考えないでください。大切なのは心からの叫びであり、抑えられない伝言であり、世界でたったひとりの経験・体験を伝えることを大切にしてください。


 関係する資料、新聞などを集め、当時の状況を描くとより充実します。できれば、関係者や専門書に当たって取材するといいでしょう。

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